断熱義務化って? 住宅購入前に知っておくべき改正後の省エネ基準!
令和4年6月17日に「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律」が改正されました。建築物省エネ法が改正されることで今まで対象外だった住宅や小規模建築物も省エネルギー基準への適合化が2025年度に義務化されることになります。
つまり、省エネ基準を満たさない家は建てられなくなってしまうと言うこと。これから家を建てる人はもちろん、今後リフォームをおこなう人たちにも大きく関わってくる法改正となりますよね。今回の記事では省エネ基準の基本的なことについてと改正後どうなっていくのかをお伝えしていきます。
今回はまじめに。
◆今回はこんな方の為に書いています。
⇒断熱義務化について知りたい方へ
⇒建築に関わる補助金を知りたい方へ
◆今回の記事を読むとこんな事がわかります。
⇒断熱義務化の経緯と必要性が分かります
⇒補助金の種類と対象者が分かります
省エネ基準とは何なのか?
そもそも省エネ基準とは何を指すのでしょうか? あまりよく知らないという人も多いはず。また、日本の省エネ性能は海外よりも低いと言われています。どのような点に違いがあるのか順番に見ていきましょう!
省エネ基準って何?
省エネ基準は建物の使用によって消費されるエネルギーに基づき性能を評価する基準となるもののこと。昭和55年に制定され、改正や強化を経て現在の基準となりました。住宅の省エネルギー性能の評価には「外皮の熱性能基準」と「一次エネルギー消費量基準」があります。
「外皮の熱性能基準」は住宅の窓や外壁など、「一次エネルギー消費量基準」は換気や照明といったものが関係。この2つの基準を用いて建物の規模や地域を考慮しながら断熱性能が決められます。
日本の省エネ性能は劣っているって本当?
実は日本の断熱性能は劣っていると言われています。代表的なものとしては窓が一般的。欧州は先進国とも言われ、窓の断熱性の最低基準も存在します。窓の断熱性は「熱貫流率」という指標で表されU値という場合も。数値が小さいほど熱が出入りすることが少なく高性能と判断します。欧州ではU値は1台ですが日本ではほとんどの住宅が6.5レベルといわれています。さらに日本には窓の断熱性能の最低基準はないこともあり、他の国に大きく遅れをとっているのがわかります。
では海外の窓はなぜ高性能を基準としているのでしょうか? それは暑さや寒さの原因として窓があげられるからなのです。窓から出入りする熱の量は6割以上。規制を厳しくすることで熱が逃げたりこもったりしてエアコンなどの電気量の消費を押さえることができ省エネにつながります。
東京都では太陽光パネルが義務化される!
東京都では2025年4月より太陽光パネル設置が義務化されることになりました。2030年までに温室効果ガス排出量の半減を目指していることが影響しているよう。近年では家庭からの二酸化炭素排出量も問題となっていることから戸建て住宅も対象になりました。実施されると戸建ての対象は全国初。
設置は大規模な建物(延べ床面積2千平方メートル以上)は建築主が、戸建て住宅は住宅メーカーに義務づけられています。しかし日陰が多い建物や住宅の屋根の大きさなど住宅の形状によって判断するため必ずしも太陽光パネルを設置するとは限りません。狭小な建物に関しても、屋根面積20平方メートル未満の建物などは設置スペースが少ないことから今回は対象外になっています。
そして、設置には当然費用がかかってきますが、東京都は22年度に省エネや温暖化対策への費用を大幅に増やしました。一般家庭への太陽光パネル設置費を36万円補助することで設置を促進する方向に動いています。家計にとっては少しでも補助があると助かります。
今回変わる断熱義務化の内容とは?
では断熱義務化が2025年度より決まりましたが、背景には何があったのでしょうか? 実は日本だけではなく世界とのつながりも関係しています。そして、私たちが家を建てるときにはどのような点が変更になるのかを見ていきましょう。
目的は? いつから始まるの?
2025年度から新しい基準となり脱炭素社会の実現に向けて動いていくことになります。目的は「2050年のカーボンニュートラルの実現」のためと「2030年度温室効果ガス46%排出削減(2013年度比)」の2つ。カーボンニュートラルの実現のためには建築分野においてのエネルギー消費を減らすことが重要となっているのです。今回の法改正により建物の冷暖房やガスなどエネルギーの使用量を減らすことが期待されています。
また、省エネ住宅の義務化には2015年の「パリ協定」との関わりが大きいのをご存じでしょうか?「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」と「できるかぎり早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には、温室効果ガス排出量と(森林などによる)吸収量のバランスをとる」という世界共通の長期目標があります。今回の改正はパリ協定に基づき日本が具体的に行動を起こしたものと言えるでしょう。
対象の建物は?
法改正は決まりましたが皆さんやはり気になるのは“どんな建物が対象になってくるのか?” ではないでしょうか。家を建てる人には大きく関わってくる重要な部分ですよね。今回の改正で対象となる建物は「すべての建物」となります。2021年の改正後の現行では住宅に関して努力義務という形になっており、延べ床面積300㎡以上の中規模・大規模建築物が対象。
そのため建築主の判断で基準に適合する家にするかどうかを決めることができました。しかし、2025年4月からはより強化されることになり、基準を満たさない建物を建てることができなくなってしまうのです。オフィスビルなど大規模建築物と比較して省エネ基準への適合への進みが遅れている住宅への取り組みを開始する形になりますね。
断熱の基準はどうなっていくの?
では、新しい基準はどうなっていくのかを見ていきましょう。改正によりすべての新築住宅、非住宅に「断熱等級4」の適合が義務づけられます。そして今までなかった「等級5~7」が2022年4月より順次スタート。つまり、今までの日本の基準では最高級は「等級4」でしたが、今回の改正により「等級4」は「最低級」になってしまうとも言えるのですね。「等級4」では壁や天井だけではなく開口部、例えば玄関や窓にも断熱が必要となってきます。
しかし、実は「等級4」も現在の技術レベルで考えると断熱性能がとても高いとは言えません。もっと断熱性の高い断熱材や、工法が存在するのです。例えば「等級5」の断熱基準は「ZEH基準」。「等級4」よりさらに断熱性や省エネ性能が高く、太陽光発電などの自家発電によってエネルギーを創り出します。
ちなみに、断熱等級はUA 値で表されます。簡単に言えば熱がどのくらい逃げるかを示す数値。UA値が小さいほど断熱性能は高くなってきます。参考基準では等級4だとUA値は0.87、等級7な場合は0.26と3倍以上の違いが出てくるのです。等級が上がるほど快適に過ごせることが数値に表れていますね。
これから家を建てる人のメリットは?
ここまででどのような建物を建てなければならないのかがわかってきましたね。しかし家を建てるとなれば等級の高いものにするメリットも知っておきたいところ。どのようなメリットがあるのでしょうか?
光熱費が安くなる
皆さんが1番のメリットとして思いつくのが光熱費の削減ではないでしょうか? 断熱性が高い家は、基本的に室内が快適な温度なので冷暖房をつける機会が減少します。もちろん必然的に光熱費は下がる傾向になります。
太陽光パネルがついている場合は電気を創ることもできるのでより電気代が下がります。もし、エアコンなどの冷暖房機をつけた場合でも断熱性能が高いので外との熱の出入りがあまりありません。そのため、例えば暖房をつけてもすぐに部屋の温度が暖まるため光熱費が少なくすむというメリットがあります。
快適で過ごしやすい家に住める
断熱性能が高くなると外の気温の影響を受けにくくなります。つまり夏は涼しく、冬は暖かい部屋で過ごすことが可能になるということ。朝起きたときや外出先からの帰宅後などに暑さや寒さを感じにくくなるとかなり生活に違いが出てきます。もし冷暖房をつけた場合でも、空調速度が早いので快適な温度で過ごす時間が長くなるというメリットがあります。
また、断熱性能が低いと冷暖房の効き方にムラができる場合があります。例えば、暖房をつけていても足下だけ寒かったりする、ということは誰でも1度は経験したことがあるのではないでしょうか? 断熱性が低い場合はこうした体感温度に差が出てきますが、断熱性の高い家ですと体の表面温度と室内温度が近くなるため「快適」と感じやすくなるのです。
健康的な生活を送ることができる
断熱性や保温性が高い家に住むと言うことは、ヒートショックのリスクも軽減することができます。ヒートショックとは急激な温度変化で血圧が変動することで起こります。体に負担がかかって脳梗塞などを起こしてしまうことも。気温の低い冬場のお風呂などでよく起こりますが、肌の露出が増えるトイレなどでも事故の可能性があるため安心できません。
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また、換気システムも充実していることから結露ができにくくなっています。結露というと窓を思い浮かべる人が多いかと思われますが、実は床下や外壁の中などにもできるのです。カビを吸い込んでしまうとアレルギー反応を起こし、皮膚炎やぜんそく症状を起こす場合も。カビなどができにくくなることもメリットのひとつになってきます。
デメリットもあるの?
もちろん、メリットだけではなくデメリットも存在します。ただしメリットの数よりは少ないかも知れません。メリットとともにしっかり比較して見てください。
住宅費が上がる
断熱性をあげるということは断熱材やサッシ、ドアなどを高性能なものにしなければなりません。当然性能のいいものを選ぶということは価格が上昇します。施工も専門的な技術が必要になってくることから工賃が上がってくることもデメリットの1つでしょう。
ついコストを押さえたくなりますが、将来的に光熱費の削減ができたり、資産価値なども踏まえて検討してみてはいかがでしょうか? 実際には長い目で見れば費用は断熱性能の低い家とあまり変わらないとも言われています。
省エネの評価基準を満たす業者を探す必要がある
高い性能の家を建てる場合には高い品質で施工する技術や知識が必要となります。なぜなら施工方法や換気とのバランスによって気密や断熱性能は変わってきてしまうからです。図面上の断熱性能が高くても施工不良やミスが起こることも考えられます。
施工の結果によって断熱性は左右されるので施工業者を選ぶには慎重にならなければなりません。そして契約前には説明をしっかり受けることと、建築中の断熱材がしっかり使われているかといったチェックも重要になってきます。断熱材は家ができあがってしまうと目には見えなくなってしまうので事前によく確認したり信頼できる業者を選ぶことがポイントです。
補助金制度を活用する
断熱性能が高い家を建てるにはコストがかかることをデメリットでお伝えしましたが、補助金があるのをご存じですか? 金額や自身の建てる家の性能など自分に合ったものを活用してみてください。
こどもみらい住宅支援事業
対象者は「子育て世代」と「若者夫婦世代」。「子育て世代」とは申請時点で2003年4月2日以降に出生した子を持つ世代のこと。また、「若者夫婦世代」とは申請時点で夫婦でありどちらかが1981年4月2日以降に生まれていることが条件となっています。
新基準で認定を受けた「認定長期優良住宅・認定低炭素住宅・性能向上計画住宅」は補助額100万円の対象に。対象の住宅になる証明書なども必要なのでしっかり確認するようにしましょう。
ZEH補助金制度
対象者はこれから「住宅を新築する人」と「新築建売住宅を購入する人」です。また、2つの要件があり、1つは「所有者が常に居住する住宅であること」。そして「登録されたZEHビルダー/プランナーが設計、建築または販売をおこなうZEHであること」が必要です。
補助金の種類は4種類で、55~112万円と幅があります。それぞれのZEHの省エネ性能や自家消費を拡大するための設備の違いによって金額が変わってきます。再生可能エネルギーを自家消費できる住宅ほど補助金額は高くなっています。
地域型住宅グリーン化事業補助金
対象者は「住宅を新築した人」と「新築住宅を購入する人」です。補助の金額は90~140万円とほかの制度よりも高めに設定されています。しかし、長期優良住宅、ZEH、低炭素住宅であることといった住宅要件をクリアする必要があるためハードルは高め。
また、自由に住宅事業者を選ぶことができないことは注意が必要かもしれません。地域木材を利用した木造住宅であることや住宅会社は国土交通省の採択を受けたグループ事業者に所属する工務店・住宅会社であることが必要となってきます。
まとめ
「断熱義務化とは何か」についてお伝えしてきました。「すべての建物が断熱等級4以上」が2025年度の改正条件ですが、今後さらなる改正もあるでしょう。普段の生活の質を上げたり、補助金額の額も踏まえて「断熱等級5~7」を目指して建てるのも良いでしょう。